9tree『Voice』リリース【Part.2】1人では見られなかった景色と、聞こえてきた自分の心の声

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「多面的な代弁者」をテーマに活動してきたAlternative HipHop Crew・9treeが2025年3月、活動休止を発表。前年12月にリリースされたシングル『Voice』が、休止前最後の作品となった。

心の奥底から湧き上がる苛立ちやフラストレーションのような鋭さと、自らを表現する術として見出した「音楽」への喜びと覚悟が刻まれた楽曲。自らの弱さを見つめる視線、過去を振り返り、未来への不安を噛みしめるその反芻の中で、「自分の人生をどう生きるのか」という圧倒的な問いの存在に気づかされる。

前半の記事では、メンバー一人一人が音楽とどのように関わってきたか、それを自己表現の手段として見出していく過程について聞いた。各メンバーが異なる道を歩んできた中で、「音楽」を通じて彼らのエネルギーと心の声が融合し、”9tree”というユニットが形成されてきたことが見えた。

『ここまで進んできたけど、ここからどうやって生きるんだよ」っていう問いと向き合う感覚です。だから、まだ答えは出ていないし、その自分の声を、自分たちの声を、忘れないようにしたいんです。」

後半では、9treeとしての彼らの共通の歩みに焦点を当てる。一人では体験できなかった大規模フェスでのステージやライブを通し観客と「会話」するなかで、9treeがもはや3人のユニットではなく、空間、コミュニティを形作る概念へと変化していく。同時に、その2年半の経験は彼らの個々の「声」にも影響を与え、新たな道へと導く道標にも変わっていった。

活動初期に制作し、2024年12月にリリースされた『Voice』。概念としての「9tree」が投げかける「自分の人生をどう生きるのか」という問いを、活動休止を決めた今、メンバーはどのように受け止めているのか。

 

MC:DAI, K’z Tyler
Back DJ:Mahae

>「9tree『Voice』【Part.1】エネルギーの旅路と融合により生まれた声」を読む  

リリース情報

『Voice』
リリース日:2024年12月27日(金)
配信リスト

 

アーティスト、9treeになる

9treeは突然現れて、ガッと活動の場を広げていった印象があります。個々人が9treeとしての活動するなかで印象的だったことを聞きましたが、ユニットである9treeとして、印象に残っている出来事は?

DAI:りんご音楽祭のオーディションから本番までの一連が、かなりエピックな出来事でした。

K’z Tyler:こんなにも応援してくれてんだ!ってすげえ実感しましたね。

DAI:溢れ出るものがありました。2023年の3月に9treeのリリパがあって、オーディションは3、4ヶ月後ぐらいか。そこから、ぎゅっと仲間たちも応援してくれてるのを感じたし、自分たちも奮い立たせ合ってやってました。けど、めっちゃ楽しかったです。「祭りだあ!」みたいな。

Mahae:めっちゃ思い出だね。

K’z Tyler:演者とお客さんだけど、お客さんも一緒にこっちのステージにいるみたいで、一緒に戦ってる感覚でした。俺らも、「こいつら行かせてやるぞ」って。

DAI:人生でなかなか味わえないよね。

K’z Tyler:ただりんごに出れた、じゃなくて、オーディションで勝ち取ったっていうのが、みんながいてこそだし、すごい価値があったよね。

 
9tree Stage- RINGO FES.2023
9tree Stage- RINGO FES.2023
 

りんご音楽祭には、どんなきっかけで行こうってなったんでしょうか?どんな人が来ていましたか?

DAI:その前の年に、遊びに行ったんです。

K’z Tyler:そう、前の年に遊びに行って、「うわあ絶対出てぇ。これは出ずにはいられない」って思いましたね。オーディションがあるのも知ってて。

俺の中でも、今までで1番行きたかったフェスだったんです。出たいとかじゃなく。唾奇さんのライブとかめっちゃ見てたのもあって、「やっと行けた、これがりんごか!」ってなりました。

DAI:夢に見た、って感じだよね。

K’z Tyler:そこから9treeで出演した時には、沖縄とか、遠くからも家族や友達がたくさん来てくれて…

DAI:音楽を始める前の友達も後の友達も関係なく来てくれたり、家族やイベントでたまたま遊んでたおっちゃんたちまでが、ばーって、「来ちゃったよ!」みたいに来てくれたりしたよね。

 
9tree with friends at Ringo Fes 2023

K’z Tyler:あと、山口も大きかったかなと思います。CHOSHU BEATSっていう、2000人ぐらいのお客さんが来るフェス。オーディションじゃなくて、m-alさんっていうビートメーカーがブッキングしてくれる人に、「こいつら面白いから」って言ってくれて、呼んでくれたっていう流れでした。

初めて本当に誰も知らないところでぶちかます、俺たちだけ「本当に無名」みたいな。戦場に行くぐらいの感覚で行きましたね。

DAI:今までで1番でかい会場。超ワクワクの最高潮。音も、爆音の爆音みたいなね。クラブとかの音とかじゃなくて、スタジアムに響き渡る。外に超響き渡ってるっていう。

Mahae:俺は、何が1番緊張したかって言われたら、山口ですね。Back DJだから、2人と比べたら普段はあんま緊張してないと思うけど、去年の2日目。1日目、思ったよりお客さんをつかめなかったので、2日目のほうが「今日カマさないとヤバい」って感情があってめっちゃ緊張しました。

 
Mahae DJ- CHOSHU BEATS 2024

K’z Tyler:有名なラッパーばかりだったから、俺らがLIVEで出た時は、もちろん会場全体が、「誰?」って空気になってて。

でも15分のステージの中で全部出し切ったら、共鳴し合って、スタンディングオーベーションみたいになって、「やべえ、こいつら」みたいなのが伝わるんですよ。ほんとに、「ライブって、生もんだな」って実感しました。そこで改めて、熱量とか伝える力の重要さを知りましたね。

DAI:はじめての遠征で、ブッキングをいただいての大規模なフェスだったしね。

K’z Tyler:掴むってこの感覚か、っていうのがありました。しかもMCがちゃんといて、紹介の仕方がすごいんですよ。「次はコイツら。9tree~!」って。で、こんな感じの奴らが出てくるから、ギャップからの(笑)。

 
9tree Stage- CHOSHU BEATS 2023
 

ライブー瞬間的な心の繋がり

クラブに行くと友達がいたりするけど、地方でまだみなさんを知らない人たちを盛り上げるってすごい。本当に「音楽の力」で盛り上げたってことですよね。ステージ上ではどんなこと考えていたんでしょうか?

K’z Tyler:もう、音楽で会話する。それだけでした。お客さんと会話するだけ。それをずっと意識してたから、あんま記憶ないんですよね。

DAI:最高なライブの時って結局、記憶がないんですよね。あとから動画見て、確かにこんな感じだったとか、誰かと話してたとか、抱き合ってたとかね。

Mahae:瞬間、瞬間は覚えていることもあるんだけどね。

DAI:断片的だよね。思い出そうとしても…みたいな。でもそれはそれで、魂に超刻まれてるから、別に無理して思い出すこともないし。

Mahae:でも、新曲を初めてやる時とかは、俺めっちゃ覚えてます。考えてるからだろうな、りんごもそうだったし。俺は考えてる時の方が失敗しないかもしれないです。たまにミスったりする時は大体、慣れでやってるところもあるから。

 

記憶があるときは、どんなことを考えているんでしょうか?

K’z Tyler:トータル2年半で、100、120回ぐらいライブしたかな。でも、記憶が鮮明にあるのは、数えられるくらいしかないです。掴みや流れってめっちゃ大事なんで、前半はどうお客さんを巻き込むかとか、会場の温度感を探りながら考えます。でも、掴めたなと思ったら考えなくても良くなるから、後は集中する感じです。

DAI:違和感。なんか微妙だったなとか、ムズいみたいなライブは覚えていますね。頭で考えなくていい時って最高だと思うし、自分たちも最高だというのが、相手にも超伝わるんです。

K’z Tyler:俺らも、違和感感じながらライブやってる時もあれば、めっちゃよかったねって時もある。でも、そういうときって、みんな感じてること一緒なんです。

DAI:嘘つけないから、めっちゃいいよね。嘘っていうか、カバーする技術もいろいろあると思うけど、そこも含めてあらわになるものがライブだから、それが面白いと思います。うまいライブをするのが、「最高のライブ」でもないし。

 
9tree Stage- Oasis, Hayama 2024
 

9treeを経て、これからの自分の道

今回リリースされた『Voice』ですが、どんな状況で書かれたものですか?

K’z Tyler:それぞれ、バース作った感じだったよな。

DAI:ビート聞いて、それぞれ。でもたしか、ビートは一緒に聞いてたんですよ。結構神々しい感じがして、「これすごいね。 魂震えるね」って。「解放しましょう」みたいな感じだよね。でも、リリパの直前までできてなかったんです。ギリギリでした。

K’zTyler:本当にね、ギリギリ。

DAI:歌詞も振り返ると、当時のその葛藤が表れてます。活動をはじめて半年以上経っていた時とはいえ、自分たちのこれからの生き方や、これからの魂、心、考え方とかがどうなっていくんだろうっていう。でもエネルギーはめっちゃあるから自分にぶつけて、またそのぶつけた疑問にぶつけ返す、みたいな。

K’z Tyler:そうだね。お互い自分の思ってることを書き出して、「内省」って感じです。

DAI:その過程では言葉をそんなに交わしてなかったけど、「これだよね」というのは、もうお互い心で分かっていたうえで作ってきて、パチンっと当てはまるみたいなね。

 
9tree previous artist photo
Dai& K’z Tyler in 2023
 

2023年には『Voice』は既にできていたと伺いましたが、これまでリリースしようと思ったタイミングはなかったんでしょうか?

K’z Tyler:自分らの「今」みたいなタイミングが来るのを、待ってました。

DAI:他の人もそんなやってきていないジャンルだし、9treeとしてもこういうテイストの曲を出すっていうイメージもなかったんです。リリースをするってところまで、湧き上がってこなかったかも。

K’z Tyler:9treeのジャンルっていうか、カラーが見えてきつつあるときだったからね。エスニックぽさとか。俺ら自身はめちゃくちゃ魂震えるけど、俯瞰してみたときにどうかなって。なんなら、リリースせずお蔵入りする可能性もありました。

DAI:休止を決めてから、リリースを決めた?

K’z Tyler:休止の前だね。

Mahae:前にRECしてるね。本RECは、10月ぐらい。

 

ご自分にとって『Voice』はどんな位置づけにある曲ですか?他の曲との違いなど、なにか感じることはありますか?

Mahae:わかりやすく、内からの言葉が出てるなってのは感じます。K’z Tylerのバースの「後チャンスは何回?」のところは、言われたその場に俺もいたから、その部分を聴くと毎回俺も頑張らんとなと思います。

でも、ライブでやる時はムズいなと思ってました。俺の中で、この曲とこの曲は似てるっていうのがあるんですけど、『Voice』は感情の乗り方、曲の雰囲気、BPMとかが他の曲と違う。初めにやっても、その後ガラッと変わっちゃうし、ぶち上げ曲のゾーンとしっとり曲のゾーン間に差し込んで転換役として使うしかないなって。

その難しさもあるからこそ、「やっぱりこの曲って、他の曲とまた違う曲なんだな」ってのは、ずっと思ってました。

K’z Tyler:燈のときは、初めてハマった感じよな。イベントのカラーにもよるし、MCで何を話すのかにもよるし。

Mahae:単純にいい曲だけど、場所を選ぶ曲は結構あるよな。全部同じ感じの曲だったら、それをやるしかないけど、俺たちはいろんなカラーがあるから。だからこそ、ハマった時はやっぱりパワーがすごいんです。みんなこの流れを見たことがないから。

 
9tree tomoshibi stage
9tree Stage- Tomoshibi『燈』

DAI:俺は、それぞれの曲に対して全部思い入れがあって、全部特別です。でも、『Voice』はタイミング的にも、タイトル的にも、節目を感じるリリースでした。ライブも全部終わるくらいの頃だったから、「休止するんだな。ラストリリースなのか」って。

K’z Tyler:他の曲に比べると、言葉を選ばずに吐いてる感じだと思います。休止が決まってから、改めてリリックを見返す時、自分が言ったことに食らうところもあるし、DAIが言ってたことにも「俺も、めっちゃわかる」みたいなこともあったりしますね。

最後のところで、“This is my life. This is my life. This is my life.”って言ってるのは、俺の感覚では、「それぞれの道に行く」のような気がして。その後に、“This is our life.”って言ってるのは、もしかしたらまた、混じるかもしれないっていう予言の気もします。

それぞれの人生でもあるけど、DAIの人生、Mahaeの人生は、俺の人生の一部でもあると思うんです。だから『Voice』は特別というか、出るべきタイミングで出た、出した、みたいな。書いた時は全然そういうつもりじゃなかったんだけど、偶然いろいろと回ってきて、伏線回収された感じがします。

 
9treemusic video one scene
DAI, Mahae & K’z Tyler
 

お話をうかがってリリックを思い浮かべると、今書かれたかのようにも感じますね。改めて、『Voice』に表れているのは、各々のどんな想いでしょうか。

DAI:俺の最初のバースで、“Where do I go? What do I do?”(どこに行くのか、何をするのか)って自分に問いかけて、その後に「何を考えてどう歌う、何を感じてどう歌う」って歌ってるんだけど、やっぱり根本はそこだなっていうのを最近思っています。

音楽は最高だし、超大好きだから、愛してるからやってるんです。それだけでも、もちろん超十分な理由。超最高だし、魂が喜ぶからやってるんだけど、どんな音楽を、何のために、なぜこの限りある今世の身体でやっていくのか。なぜこの人生を選択しているのか。なぜこの人生に誘われて、今を生きているのか。

いま、これから自分の道を歩いていくけど、各々が自分にこう問いかけて、そして歩んでいくっていう、「新たな門出」みたいなところはあると思います。

 
DAI- Channels his spirit through song
DAI- channeling his spirit through song

K’z Tyler:この曲は人に対して何を言いたい、何を伝えたいとかは、あまりないです。共感や食らってくれる人がいたらもちろん嬉しいですが。ここから自分とどれだけ向き合えるのか。自分自身に、自分達自身にお題を出してる感覚に近いかもしれないですね。

俺のバースは、わりと過去を振り返ってます。「ある程度こなすこと出来てたから 誤魔化してた自分と残骸」って歌ってる通り、こなすことはできてた。自分自身を俯瞰して見れるけど、逆に自分自身に集中しきれてなかったんです。「そんな自分が嫌だ」みたいな葛藤がすごくありました。もっと深く自分と向きあわないといけない、追い求めたいっていう当時も持っていた感情は、今もさらに強くなってます。

その自分のバースの後に、DAI自身が抱えていた、「何のために生きるのか」っていうバースが入る。「ここまで進んできたけど、ここからどうやって生きるんだよ」っていう問いと向き合う感覚です。だから、まだ答えは出ていないし、その自分の声を、自分たちの声を、忘れないようにしたいんです。

 
K’z Tyler- giving voice to his soul

DAI:「9tree」っていう概念の中に『Voice』の曲、歌詞、メロディが存在していて、「9tree」側から3人に問われているようにも受け取れる、一つの解釈として。今日、帰り道に聞いてみよう。

今思ったけど、あのビートって結構クライマックス感がめっちゃあるけど、始まり感もあるというか…

K’z Tyler:たしかに、たしかに。始まり感もあるよな。一つのストーリーが終わったみたいな感じでもあるし。

DAI:いろいろあった9treeの最後のリリースだから、いろんな意味があるんだろうなと思います。ボイスメッセージが残されました、みたいなさ。これからまた見えてくるものがあるかもしれない。また次のインタビューの時に、感じるものがあるのかもしれない。

 
9tree  Instagram / X / YouTube K’z Tyler / DAI / Mahae

突如シーンに現れた2MC+1DJで構成される”Alternative Hiphop Crew” (MC:K’z Tyler & DAI + DJ:Mahae) 2022年に音楽活動を開始し「多面的な代弁者」をテーマに活動中。 ジャンルに囚われない自由なスタイル、2人 (K’z Tyler & DAI) の交わりが生み出す独特なグルーヴは、聴く人の体と心を揺らす。 2023年からはBack DJでありグラフィックやビートメイクも務めるMahaeが正式に加入。音楽だけでなくアートワークも自身達で手掛ける。 2024年には能登半島地震の被災者の方々へ向けたチャリティーソング「燈」をリリース。彼らと親交の深いアーティストが参加しており、総勢10人のマイクリレーソングとなっている。 「燈」MVはMcGuffin公式チャンネルにて公開中。 活動1年目にてりんご音楽祭2023、山口最大のHiphopフェスCHOSHU BEATSに2年連続で出演するなど、これから目が離せない最注目ユニットである。 今宵も誰かの心に届くよう魂を削り、叫ぶ。 A tree soul we got.