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点描で映す心と脳の内側:KIICHI SHIMOYAMA fr. Native Wood(s)の表現をつくるもの 

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合同展『Flower moment』で異彩を放っていたアーティスト、KIICHI SHIMOYAMA。華やかでカラフルな作品が並ぶ中、彼の作品は点描技法による繊細さとクールな美しさを持ち、他の展示物とは明確に異なっていた。

展示された『MODERN SOCIETY』では、純粋さを象徴する百合の花と、人工物を象徴するフェンスが対照的に描かれている。この作品は、現代社会が抱える矛盾や葛藤を浮き彫りにし、そこに隠された人間の「純粋さ」を示しつつ、そのなかに宿る希望が込められている。ネガティブに映る要素の中に、ポジティブなメッセージを織り込むその手法は、KIICHI独自の視点を際立たせている。

幼少期から絵を描き続けてきたKIICHIは、現在、アパレルブランドGreened mindのデザイナーであり、アーティストクルーNative Wood(s)の一員としても活動している。クルー内ではジャケットデザインやアートワークを手掛け、ラッパーであるメンバーらと共に、音楽とアートが交わる新たな価値を生み出している。

幼少期にデザイナーであった破天荒な父から受けた影響や、その中で培った感性。それが、現在の活動にどのように生かされ、どのような形で作品に表れているのか。また、クルーメンバーとの関係性が、KIICHIの創作に与える影響とは何か。本記事では、KIICHI SHIMOYAMAの創作の原点に迫りながら、その表現が生み出す独自性を探っていく。

 

KIICHI SHIMOYAMA

Native Wood(s) _Kiichi

群馬県と長野県の県境を拠点にするアーティスト集団《Native Wood(s)》のメンバーであり、アパレルブランド《Greened mind》のデザイナー。幼少期から父親の影響で絵を描き始め、自然や心、エロティシズムからインスピレーションを受け点描技法で表現する。6月には東京で初の個展、自己対話を意味する『Mental Dialogue』を開催した。

KICHI SHIMOYAMA:Instagram
Native Wood(s):Instagram / YouTube / Spotify / Apple Music
Greened mind™:Instagram / Stores

KICHI SHIMOYAMAがジャケットを手掛けた、Native Wood(s)最新曲『Peace Out』はこちらから。メンバーへのインタビュー記事も公開中。

 

KIICHI SHIMOYAMAの創作哲学と感性

幼少期に培われた自由な感性

KIICHIさんが絵を描き始めたのはいつ頃からですか?

KIICHI:絵自体は物心つくまえから描いていました。父親がデザインの仕事やってたり、学校にも行ってたんで、家でデッサンとかしているのを自分も見ながら描いてたら、おのずと絵が好きになって、もくもくずっと一人で落書きしてるみたいなところから始まりました。中学生、高校生のときもノートとかにずっと落書きしてましたね。

どんな絵を描いていたんですか?

KIICHI:変なのが多かったかな。女の人か、アートっていうよりは模写系とか。今より当時のほうが、絵的には変だったかもしれないです。「おでこから牛乳が出てて、それを自分でコップに入れてる」みたいな。(おでこから出たら)楽だなーって、朝とかにいいなーって思って描いてたりとか。

現在の作品テーマである自然、心、エロティシズムに焦点を当て始めたきっかけは何ですか?

KIICHI:父親の影響で。かなりぶっとんでいたというか、頭おかしかったんですよね。相当な酔っ払いだったんで。バーべーキューとかキャンプとか行ったら、普通のお父さん像って火起こししたりとか率先して動くみたいなのがあるじゃないですか。でもうちの父親は、車の中でお酒飲んでベロベロになって、到着するころには子供の前で嘔吐してたりとか。お酒飲んで車の代行頼んで帰ってきても、あとは大丈夫だよって自分で代行の方を帰らせて、そのまま自分が玄関に突っ込んだりとかして。破天荒ですね。

すごいですね。幼少期の経験にはどんな経験を?

KIICHI:トイレとかにも、エロ本がいっぱいおいてあるような状況で育ったんですね。車のガレージにも、外国人の裸のポスターとかめっちゃ貼ってあったし。「エロイなー」っていうよりは、それがもう「普通」的な感じで育ってきてたのもあり、自分も必然的に興味が沸いたというか、知ることにはなっていました。

最初からアーティスティックな感じ(笑)

KIICHI:みんながジャンプとか読んでいるところ、自分はヤングジャンプを読んでて。付録で普通に女の人の裸が載ってるとか、そういうのを見て育ってきちゃったんで、こうなりました(笑)アニメも親が好きじゃないから見ない環境で育ってきて、子供のころから時代劇とか見てましたね。

 

点描技法が映し出す内面の風景

Native Wood(s) _Kiichi2
点描で作品をつくられていますよね。点描技法ってそもそもどんなものなのか教えてください。

KIICHI:ヨーロッパのめっちゃ昔の絵描きが始まりで。フランス・ジョルジュスーラの『グランド・ジャット島の日曜日の午後』っていう絵があるんですけど、これが点描なんですよ。そのときは油絵を筆につけて細かい点で絵を作っていくのが、今も残っている本来の「点描」っていわれるやつです。当時は筆でチョンチョンとやっていたところが、ペンができて….みたいな感じなんだと思います。

油絵なんですね。知らなかったです。点描技法に興味を持ったきっかけは何でしょうか。

KIICHI:そもそも色塗りがめっちゃ苦手。筆に絵具とかつけても、「なんでみんなそんなに伸びイイの?」みたいな。だから、あまり筆を握ってこなかったんですよね。点描に行った時も、おのずと「ペンの点描」のほうに行ったって感じですね。自分としては、塗るよりも楽っていうか。

点描で描くのは、絵を描き始めた当初からやっていたことなんでしょうか?

KIICHI:コピックとかでやったり、筆で水彩もやっていたりしたんです。でも難しいし、なんか自分のなかでしっくり来ていないような気もしたんですよ。モヤモヤとまではいかないけど、試行錯誤した時期とかもあって。

ヴィンテージのものが好きなので、ポスターとかを見ていたんです。クラシックなものって点描でも影を線で描いてたりとかしてるんですよね。おもしろくなってやり始めて、結構しっくりきたって感じです。

Native Wood(s) _Kiichi3

絵の入り方もほかの人と違うって感じがします。絵の描き方にすら、その精神性が表れてるって面白いですね。

KIICHI:もともと古いものが好きで。そこの「古い」っていう概念が、点描にも紐づいていたからな気がします。Native Wood(s)はわりと共通認識としてあるかもしれないですけど、自分は特に好きかもしれないです。

車とかもそうだし、服もヴィンテージが好きであさってた時期もあったし。昔から続いている文化みたいな、古きよきものとかは好きかもしれないですね。和のものとかも。焼き物と染め物とかみたいな伝統工芸とかも。

点描に出会って、ご自分のスタイルが確立されたんですね。

KIICHI:自分の過去の服装とか見たときに、「ダセエなあ」って思うか、「こんときからイケてんじゃん」って思うかは、その時にならないとわからないじゃないですか。将来見たときに、納得できるんじゃないかなって思うくらいには、納得出来てますね。

 

絵を通じた自己対話

絵を描く際のインスピレーションは、どんな状況や場面で得られることが多いですか?

KIICHI:群馬(地元)にいると車を運転する時間も多いんです。結構1人の時間が好きで、そういうときとかに妄想とかするの好きかも。頭の中にポッと絵が浮かんで、それをかたちにするって感じです。TaroとかMikiは言葉として出てきて、言葉(リリック)にするじゃないですか。自分はわりと映像で出てきて、それを絵にしています。

「これを伝えたい」っていう想いから描くのではなく、思い浮かんだものを?

KIICHI:(2024年6月)祐天寺で「自己対話」っていう意味の『Mental Dialogue』っていう個展をやったんですよ。自分と会話して、自分がどういう精神状態かを知るって大切じゃないですか。疲れてたり、メンタルやられていたら休むとか。作品をみて、「今の自分の状態ってこういうことなんだ」って自分の生活に置き換えてみて自分を見つめなおすというか、想像したりして見てもらえたらいいなっていうのでタイトルをつけたんです。

KIICHI:自分自身のなかでも、「自己対話」をやりますね。絵を描いて、自分の絵を見たときに「なんで俺これ描いてんだろう」って途中なるけど。(Flower momentで展示した)百合の花=純粋なものと、フェンス=人工物があわさっていくのとかも、見返して「現実社会ってほんとそうだなあ」って感じで、「MODERN SOCIETY(現代社会))」っていうのをタイトルにしたりとか。  

 

KIICHI SHIMOYAMAの創作哲学と感性

音楽とアートが交差する創作プロセス

作品としてつくるようになり、なにかテーマや描きたいと思うものに変化はありましたか?

KIICHI:基本ずっと変わらないかもしれないです。初めて描いた絵は、「ビルがあって、そこに人がいて怪獣が襲ってきてて。ビルの上に残された人が、下に落ちて山積みになっている、飛び降りちゃって。」みたいな絵で、題名が『諦めて自殺』。一番初めに描いて母さんに渡した絵がそれだったんで、変わってないです。今のほうが、柔らかくなってるのかもしれないですね(笑)

いまアーティストクルーとして活動されていて、メンバーからインスピレーションをうけることもありますか?

KIICHI:ありますね。一緒にいるときに思い浮かぶことも結構多くて。みんなで自然行ってゆっくりしてっていう時間とかもあるし、いろんな会話もする。人間関係の話もするし、自分の感情も素直に話すしっていう関係性なのでそういうのを聞いたり、リリックとかからインスピレーションを受けたりもめっちゃありますね。

(Native Wood(s)ではなくとも)曲からインスピレーションを受けたりとか、絵が思い浮かんできたりすることも結構あるんで、それが仲間が作っている音楽ってときもあります。 

KICHI SHIMOYAMAがジャケットを手掛けた、Native Wood(s)最新曲『Peace Out』はこちらから。メンバーへのインタビュー記事も公開中。

 

クルーメンバーとの信頼が生む自由な表現

Native Wood(s)のメンバーとしてジャケットを作るとき、なにか自分のなかで違いはありますか?

KIICHI:みんなからの自分に対しての信頼があるのも感じるし、自分もTaro、Yoppy、Mikiが曲作ってくれてそれを投げてくれたことに対してのリスペクトも感じる。自分の想像したものを描けるって意味では、自分個人の作品をつくるのとあんまり変わらないかもしれないですね。

いいですね。曲に合わせて描いてほしいって「言われて」描いているんじゃなくて。

KIICHI:自分の描きたいやつを描いたら、勝手に評価してくれるというか。デザインをクルー以外からお願いしてもらった時って相手とのやり取りを綿密にして相手の意見も取り入れつつやったりとかあって。悪いことでは全くないんですけど、それはどうしても頭を使うことではあると思うんです。でも、Native Wood(s)のジャケットをお願いしてくれる時は、自分の描きたいやつをただ描けばいい。楽しいですね。

 

直近のジャケット制作とその背景

ネガティブの裏側にある、ポジティブ

直近では、『Peace Out』がリリースされ、KIICHIさんがジャケットを担当されていますよね。

KIICHI:ネガティブやディスの曲っていうのはすぐわかったんですよね。TaroとMikiの性格も知っているっていうのも大前提としてあるんですけど、ただネガティブなディスだけじゃなくて、すごくポジティブなディスのような感じがして。

ジャケットはディスっぽく悪い雰囲気にしたかったんですよね。でも実際はポジティブっていう意味が込められているってところで、曲ともすげえマッチできたかなっていう。

Native Wood(s) _Peace out

『Peace Out』のジャケットにはどんなテーマが込められていますか?

KIICHI:基本的に自分の絵はダークな雰囲気だけど、中を掘ったらポジティブっていうの意味合いを持たせるのが好きです。

ドクロはすごく悪いイメージがあるけど、「終わり」=「何かの始まり」「再生」だったりっていう、ポジティブな意味合いもあって、いい意味で使われたりもする。カラスも吉兆の鳥っていうモチーフで使われたり。ピストルについては、Taroがフックでネガティブにgun shotって言ってることもあるんですけど、戦争のイメージが強いけど、身を守るためにも使われるから、ピストル自体が悪いものではないっていう考えもある。

全部悪いイメージがあるけど、裏を返せば全部ポジティブっていうのを伝えたくて、その3つをチョイスしたって感じですね。

>「ネガティブへのさよなら」メンバーへのインタビュー記事も公開中。

 

未来への挑戦とファンへのメッセージ

自分しか持っていない感性と表現方法で、感情を動かす作品作りを目指して

最後に、ファンへのメッセージをお願いします。

KIICHI:作品を作るからには、作品を見てくれている人、音楽だったら聴いてくれる人とかいて成り立つというか、自己満100%で作品をつくるってなかなかできないことだと思ってて。誰かに見て共有してって気持ちが、アーティストは少なからずあると思うんですよ。

ファンの方がモチベーションでもあり、支えっていう意味でもめっちゃ大きいなと思います。絵を描けている理由、活動ができている大きな一つな要因っていう感じもしているから感謝だなと思います。

Native Wood(s) の曲もですが、今後どんなジャケットが見られるのか楽しみです。

KIICHI:見てくれる人、聴いてくれる人がワクワクしてくれたら最高なんで。見てくれた時に感情が動いてくれるっていうのが、どういう感情であれ。自分の悩みについて考えるきっかけだったりとか、「わー、すげえ」ってテンション上がったりとか。感情が動いてくれたらめっちゃいいなと思います。今後の活動も、楽しみにしていただけたら嬉しいです。

 

直近のリリース情報

『Peace Out』Miki,TARO fr. Nativewood(s)

リリース日:2024年11月16日(土)00:00
配信リスト
詳細はこちら
>「ネガティブへのさよなら」メンバーへのインタビュー記事も公開中。

 

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