7MC+1DJのジャンルレスHip-Hopクルー・Y’s CAMPが下北沢ADRIFTで2024年12月22日、ワンマンライブ『among us』を開催した。前年に行われた主催ライブ『Gwan Gwang』でワンマンライブを公言してから、約1年後の開催となった。
今回は、MCのRYU・troy・Rui・mihiro・TENMA・ISHIとDJのTAKUMUに、among usについて話を伺った。
仲間の輪から、さらにその先へ
ワンマンライブ『among us』がどんなライブだったのか、いろんな角度から聞かせていただければと思います。今回、みなさんからも周りに声をかけてライブにお誘いしたと思うのですが、どのような方々に声をかけたのでしょうか?
ISHI:恩返しって意味もあったワンマンライブだったから、俺は今までの人生でお世話になった人たちに声をかけました。家族ももちろんそうだし、中学・高校・大学・社会人を経て、サポートしてくれた人ですね。今回は、友だちの友だち、さらにその友だちも来てくれていて、お客さん同士でも会話がけっこうあったみたいです。友だちの友だちに対しても興味を持ってくれていて、うれしかったですね。あとは、俺らがライブとかやってきた中で繋がった人だったり、音楽関係者が来てくれてたりもして「今までやってきた集大成だな」と感じました。
mihiro:俺は電話できる関係の人に声をかけました。ライブを振り返って再確認したのは、『Prayers』のRYUのバースじゃないけど、周りに悪い人がいないということです。思い浮かべる人は全員いいやつ。
Rui:俺は会社の上司だったり、みんなと被っていないコミュニティには、なるべく声をかけました。そういう人たちに普段やっていることをわかってもらえたらうれしいな、みたいな感じはありましたね。
troy:来てくれてた子たちの中でも、知らない人が多かったな。
TAKUMU・ISHI:俺も。
mihiro:確かに。
troy:今までのライブは何となくわかっていたんだけれど、今回は全然知らない人もいました。今まで来てくれてた子の、もう一個外側から来てくれた人が、けっこういたなと思いました。

「周りから愛されているグループだなと感じました」
ワンマンライブ前に、クルーのテーマである「Love & Peace」を内から外に広げたいとおっしゃっていましたが、そのビジョンが形になったのだと今のお話から感じました。ステージから客席を見て、感じたものはありますか?
Rui:客席を見て思ったのは、各々抱えていることもあるかもしれないけど、みんな笑顔だし、Bad mind(バッドマインド)があまりなかったのかなということ。みんなの視線だったり想いをくみ取って思ったことは、スタートラインに立ったなっていうのがありましたね。もっと技術面だったり見せ方だったりを磨いて、Y’s CAMPを広げていくために頑張っていこうっていう覚悟ができました。

TAKUMU:among usだけじゃないけど「周りから愛されているグループだな」と感じました。客席の前方で気合いを入れて応援してくれていたり、後ろの方で揺れてくれている人がいたり、カメラをずっと回してライブ後に素材を送ってくれたりとか。いろいろ感じてくれたのかなと思います。
troy:お客さんの熱量がすごかったですね。”楽しみ”とか”応援”っていうポジティブなエネルギーの表現がけっこう熱い子もいて、楽しんでくれているのを感じました。
RYU:ライブが始まる前でいうと、楽しみにしてくれてる感じが伝わりました。TENMAコールとかね。
ISHI:「TENMA!おめでとう!」「いしぐろおぉぉぉー」ってね。
TAKUMU:早いペースでお酒飛ばしてるなって人もいたな(笑)。それも楽しみにしてくれてるってことだもんね。DJのときからお客さんは入ってくれていて、お客さんの中でも仕切ってくれる人が音頭を取って、一体感を作ってくれていました。

TENMA不在のなかのライブ
今回、TENMAさんは家族の事情でライブを欠席しましたが、ライブ動画や周りから聞いた話から感じたことを教えてください。
TENMA:ちょうど前日に子どもが生まれて、Y’s CAMPのみんなに、ライブに出演できないことを伝えました。充分準備もしてきていて、TAKUMUをはじめとしてセットリストも俺がいないバージョンを考えてくれたりしてたから、あとは任せたよって感じでした。俺はその場にいることはできないから、インスタライブをしてほしいとお願いしました。ちょうど病室でライブを見ていたんですが、入りで決まるなと思っていましたね。最初の曲が『Camp Fire』で、本来は俺が一番最初に入ってくるっていう想定だったんだけど、次のバースのmihiroからライブが始まりました。mihiroの入りで、ライブの良し悪しがほぼ決まるんじゃないかと思っていましたね。
View this post on Instagram
TENMA:カメラは基本的にステージの方を向いていたので、会場の雰囲気やどれくらい観客が入っているのかも全くわからなかったんだけど、音がマイクを通して届いてきていて、一言で言うと、とても誇らしい気持ちになりましたね。感動したっていうとちょっと大げさかもしれないけど、カマしたなって。それこそ客演で参加してくれた人たちも含めて、みんなが素晴らしいパフォーマンスをしてくれたことに感謝の気持ちでいっぱいでした。後から聞いた話だと、楽屋裏では、ナーバスな雰囲気になっていた時もあったらしいけど「やるしかない」ってみんなの気持ちが一致して、ステージに立った後はそれを感じさせない素晴らしいパフォーマンスでした。みんな声も出ていたし、表情や動きもよく、全体としてすごくいいライブでしたね。
ISHI:今回TENMAがいなかったからこそ、TENMAの分もカマさなきゃって思いがありましたね。そこで逆にひとつになれたってのはあったかな。『何のため』とかは、TENMAのことを思って歌ってたな。

ライブで見えた楽曲の反響
ワンマン前にアルバム『among us』をリリースし、ワンマンで初めてお客さんの反応を見たと思いますがいかがでしたか?
Rui:『Localize』のフックを歌ったら、お客さんから返ってきたのにはびっくりしましたね。『among us』だけじゃなくて、『BY YOUR SIDE』や『Prayers』、アルバム『what It Is』の新しい曲とかも歌ってくれる人が多くてうれしかったです。
RYU:俺も『Localize』のフック、歌ってるなって思いました。ワンマンのときはまだ歌詞が出てなかったよね。
TAKUMU:うん、それもアルバムのリリースはワンマンの1週間前だったし。
mihiro:すごいなそれ。

Rui:『Prayers』でのmihiroのバースのところ、めっちゃうれしいでしょあれ。
mihiro:いやー、びっくりした(笑)。メンバーが後ろでかぶせてくれるのはわかってたけど、お客さん側から返ってきたのは驚いたな。
Rui:後ろの人たちが、腕を組みながら、うなずいて聴いてるのが見えたときもうれしかったです。ちゃんとまっすぐな視線で見守ってくれてるって感じでした。心から聴いてくれてるって人が多かった印象です。

ライブ後の反応について
ISHI:いつもBATICAのPAでお世話になっているqujiokiさんとか、俺らがお世話になってきた先輩たちも来てくれて「マジで今回感動した」「泣きそうになった」って伝えてくれました。お世話になった人が俺らの気持ちを受け取って、連絡してくれたのはうれしかったです。
TAKUMU:俺たちも緊張したりバタバタしてたりでいろんな感情を抱くけど、感動したとかっていう言葉をもらったり、楽しみにしてくれているのを見ると、やらないとなってなりますね。
ラストを飾った『Waves』
今回のワンマンライブでは、最新アルバムamong usの『Waves』で、ラストを締めくくりましたね。りんご音楽祭やこれまでのライブでは『Prayers』でラストを飾るのが多かったと思うので印象的でした。
TAKUMU:『Prayers』で終わらせるのは、大きなライブとか主催ライブではたくさんやってきたので、今回はそういった面でも新しさが欲しくて、新曲を最後に持ってきたいってのはありました。『Waves』を最後の曲にするのは、クルー内でも総意でした。「これがエンディングっぽいね」という感じで、終わり方が一番イメージつきましたね。
あと、Wavesに関しては、MCメンバーの「今と未来」もそうだけど「過去と現在」の自分を対比させるようなリリックが多くて、今回のイベントに集まってくれた人たちと、その軌跡を共感し合えるかなと思いました。
例えば、RYUのリリック「オレンジのシャツで走ってた奴 今ボールの代わりにマイク回す」という部分で、その背景を知っている人がめっちゃ盛り上がっていたり。
troy:mihiroのリリック「暮れる夕日 セリス仙川」で、仙川勢が「わー」っていうのはあったね。
TAKUMU:Prayersは、みんなが歌ってくれる参加型の曲みたいなところがあるから、それで終わるのもいいんだけど、ライブが終わったあとに急な寂しさみたいなのもあるのかなって。Wavesのあたたかい空気感で、ゆったりと終わらせてみたかったです。
View this post on Instagram

「(客演の方たちに対して)もともとLove & Peaceの精神を持った人たちだったんだろうなって思いました」
ワンマンライブ前の取材で、among usのコンセプトについて「自分たちの『Love & Peace』の空間や輪を広げていけるような、コミュニティを作ること」と話されていましたね。ライブから数ヶ月が経ちますが、among usからLove & Peaceが広がっているのを感じた瞬間は?
mihiro:Love & Peaceが広がったかどうかについては、正直なところ俺の実感としてはよくわからない部分もあります。ただ、一緒に出演した客演の仲間と次の曲を一緒に作ろうという話が出たり、俺たちを挟まずにお互いに仲良くなったりしたっていう点では、やっぱりLove & Peaceが好きなメンバーでこのイベントができたんだなっていう認識はありますね。多分もともとLove & Peaceの精神を持った人たちだったんだろうなって思いました。


4年間の活動を経て感じるグループの成長
『Waves』の歌詞「放って壊れた方位磁針 信頼で合わせた帳尻」とあるように、今回のライブを作るうえで、認識のずれなどによって大変だったことはありましたか?
ISHI:大枠の方向性は、今回は揉めてないんじゃないかな。among usに関しては、こういう方向性でいこうっていう会議をしてから揺らいだことは1度もなかったですね。話がまとまらないことはもうあまりなくなりました。1・2年目は自分が主語で「俺はこうしたい」だったけど、今は「Y’s CAMPがどうか」で決まっている。俺はこうしたいけど、Y’s CAMPの見え方的に違ったらそれじゃなくていい。意見が割れたとしても、グループとしてどっちがいいかで全部決めるようにしています。

TAKUMU:今回は揉めた印象はないですね。MCは自分のやりたいことはやったほうがいいと思っていて、ISHIが言ったように「俺はこうしたい」といった感情は大切にすべきだと思う。3年間やってきた中でいろいろ葛藤を重ね、100%の自己表現はソロで出せばいいっていう捉え方にいい意味でなってきたのかもしれません。あと、体制的にも上手くまとまってきているってのもあります。それぞれの担当ができてきたというか。最初の軸を担当の誰かが持ってきて、それに対して他のメンバーがYes・Noで判断していくから、揉めることが少しなくなってきたかな。
ISHI:あと、分担できるようになってから、そこは任せるっていう信頼が生まれて、いろいろ決めるのも早くなってきたよね。
troy:俺は去年のGwan Gwang(主催ライブ)あたりから、みんなが「俺はY’s CAMPの中でこういうスタンスでいるべきなんだな。これを求められているんだな」「ソロとY’s CAMPは違う」って感じていたんじゃないかなって思いました。
【Y’s CAMPインタビュー | 前編】愛にあふれた音楽を生み続ける東京発のヒップホップクルーの裏側
前回の記事でCreative Members(裏方)のみなさんについてお話ししていただきましたね。今回のワンマンライブでの活動は?
mihiro:今までのライブは俺ら演者だけよかったなみたいな顔して、裏方は同じ温度感じゃなかった気もしたけど、今回はYAMAだったら1番緊張したって言ってたし、Tigre Aokiも動画何本も作ってて、自分事としてやってくれた感じがしました。マジになってくれたというか、それがうれしかったです。

TAKUMU:YAMAは、今回VJを初めてがっつりやってくれたよね。今までYAMAから言われることなかったけど、午前3時になっても「あともう1回、あともう1回」って言って、一緒に練習を繰り返していました。逆に俺から「もう帰らせて」っていいましたね(笑)
ISHI:裏方のためにも、当日カマせてよかったって思いました。俺もRuiも当日のステージ上で言ってたけど、マジで全員でY’s CAMPだから。
mihiro:俺も今回のワンマンで思ったのは、プロに高い金を払ってやってもらってないっていうのがいいところだなって。周りの人に出店してもらって、服を提供してもらって…
RYU:箱だけじゃない?借りたの。
mihiro:うん、箱ぐらいだね。そうやって不器用ながらに俺らの輪を広げていくとか、俺らの周りで経済回すって言ったらちょっとでかいけど、 協力し合うみたいなのが、俺らができることだなと改めて思いました。
【Y’s CAMPインタビュー | 後編】愛にあふれた音楽を生み続ける東京発のヒップホップクルーの裏側
今後のY’s CAMPの楽曲・ライブの楽しみ方について
今後のY’s CAMPの楽曲または活動で、特に注目してほしいポイントはどこですか?
troy:EP『C.A.M.P』のジャケットを描いたのがTigre Aokiなんですけど、使われているカラーが、彼がイメージした演者全員分のカラーになっているんです。これからのY’s CAMPで注目してほしいのは、聴いてくれるみんな自身がどのカラーが好きなんだろうっていうところ。Y’s CAMPを構成しているカラーを、自分の持っているカラーと照らし合わせてほしいです。2025年に出た曲が、この人とこの人、このカラーで作った曲なんだっていうふうに見ると、そっちの方面でY’s CAMPをディグれるし、音楽を聴くっていうことに深みが出ると思います。
TENMA:個人的には、特に「ここに注目してほしい」といった部分はあまりなくて、最近は受け手に委ねたいと思い始めています。Y’s CAMPで出した曲の中で、いい意味で自分が意図していなかった受け取り方をしてもらうことがあって、新たな気づきがありました。だから、今後も「こうするからこう受け取ってほしい」とか、そういう制限はあまりしたくないなと思います。
TAKUMU:俺もどっちかっていうとTENMAと一緒で、受け取る側に委ねたいと思っています。どこがポイントかって言っても、いろんなところにおもしろい部分が詰まってるし、音楽や芸術的なものにおいては受け取り方を強制するものではないと思っているので。もちろん、作り手として楽曲ごとに想いやテーマはあります。もっと言えば、MCのリリックの中に込められている意味合いはけっこう深いものがあります。それぞれに意味が込められてるけど、それを「こう込めたからこう聴いてください」っていうのはしたくないですね。

TENMA:流し聞きしてもいいし、1人の時にイヤホンで聞いてもいいし、いつ聴いても、どんなシチュエーションでもいいと思っています。自分がいいと思ってるものが、他の人には理解されないこともある。それが、1つの作品として価値があるかどうかっていうのは、結局感じ方の違いだから。
troy:俺もそう思う。今後の活動でどこに注目してほしいかって話だと、ソロ活動をやるっていうのがあるから『C.A.M.P』のジャケットに込められた意図と重ねておしゃれに言っただけで。基本的に俺個人としても、受け手側が自由に解釈してほしいと思っています。作り手として、何も意図を込めずに作るのはあんまり好きじゃなくて。それは単に俺の好みだけど、適当に作って「どうぞ」っていうよりは、何かしらの意図を込めて作ったもののほうがいいと思っています。そうやって作ったものに対して、いろんな憶測が世の中に出回るわけで「こういう風に感じてる人もいるんだな」って見てるのが、俺はいいなと思いますね。

─ライブ自体は一瞬でも、心にずっと残るものがある。観る人が、自身の感情や経験と重ね合わせながら楽しめるライブがそのひとつだと思う。『among us』は、まさにそんなライブだった。
Y’s CAMPを取材して約2年。彼らのワンマンライブを客席から観て感じたのは、お馴染みの方も初めて見る方も、それぞれが何かしらの形でライブと向き合っていたことだ。パフォーマンスが始まる前の高揚感、ライブ中に演者に向けられる視線や歓声から、それが伝わってきた。
TENMAとTAKUMU、troyが「受け取り方を限定しない」と言ったように今回のライブにもその姿勢が表れていたことで、お馴染みの方と初めて訪れた方の間にも一体感があったのではないだろうか。
これまで取材を重ねてきて思うのは、彼らは個人の楽曲の解釈に限らず、社会の見方や価値観なども尊重しているということ。そんな彼らのライブだからこそ、どんな状況にいようと、どんな背景を持っていようと、その瞬間音楽に浸ることができる。『among us』は、まさに「感じ方の自由」を実感できるようなライブだった。
写真提供
JUNPEI(@pei_gram)
Y’s CAMP 2021年に結成した7MC+1DJのジャンルレスHip-Hopクルー(MC:RYU,troy,Rui,mihiro,TENMA,ISHI,tity DJ:TAKUMU) 1st Singleで自らを「Prayers」と称し、「Love & Peace」をテーマに音楽を通じて彼等の世界観を広めている。メンバーそれぞれのルーツを落とし込んだジャンルにとらわれないサウンドに、自身や仲間、家族へ向けた個性的なリリックが織り成すグルーヴアプローチで人々の心を掴んでいる。楽曲制作に携わるアーティストだけでなく、アートワーク、ビデオディレクション、マネジメントを担当するメンバーも所属する大所帯クルーである彼等がつくりあげる主催イベント「Camp Fire」や「Gwan Gwang」では界隈の注目を集め、人々の心を繋いでいる。
出演歴:りんご音楽祭2023 |